20220812

8/11-14 (後半組) 剱岳 無雪期アルパイン 森田 吉田 中嶋 小林 平野 鬼川 柳川(記)

山域
剱岳
日程
2022年8月11~14日 (後半組)
メンバー
森田 吉田 中嶋 小林 平野 鬼川 柳川(記)
コースタイム
8/11(木・祝)
8:35 室堂
9:10 雷鳥沢キャンプ場
11:15 剱御前小舎
12:45 剱澤小屋
13:55 長次郎谷出合
16:55 熊の岩

8/12(金)
6:50 熊の岩
7:30 Ⅵ峰Cフェース剣稜会ルート登攀開始
10:10 登攀終了
11:50 Ⅴ・Ⅵのコルへ懸垂
13:00 Ⅵ峰Aフェース魚津高ルート(?)登攀開始
15:10 登攀終了
16:55 熊の岩

8/13(土)
6:45 熊の岩
7:30 Ⅵ峰Aフェース魚津高ルート登攀開始
9:40 登攀終了
10:55 熊の岩

8/14(日)
6:20 熊の岩
7:10 長次郎谷出合
9:00 剱澤小屋
10:55 雷鳥沢キャンプ場
10:00 剱御前小舎
11:45 室堂
感想
2022年夏合宿は熊の岩にベースキャンプを張り、8/6(土)~16(火)の11日間という長丁場。個人山行で7月末から1週間の夏休みをとっており、さすがにこれ以上は仕事を休めないため後半の4日間だけ参加させてもらうことにした。日数は少ないが、八ツ峰Ⅵ峰の名ルート2本プラスアルファを登ることができて大満足。初めて「クライミングって楽しいかも?」と思えた山行だった。2日間ロープを結び、目玉のピッチを譲ってくれた小林さんに感謝。

8/10(水)
21:00集合。多賀SAで鬼川さんと合流し、鬼川号に移動。翌2:45立山駅駐車場に到着。鬼川号に女性3人で寝ることにするが、隣の車のエンジン音、ドアの開閉音が気になりあまり寝られず。

8/11(木・祝)
中嶋さんが立山・室堂間の往復のチケットを買ってくれたが、チケットの有効期限が5日間だった。私は足りる計算だが、他のメンバーは16日下山の予定なのでギリギリ足りず片道を買い直し。よくあることのようで窓口は柔軟に対応してくれた。
ハーケンとバイルを初めて買ってワクワクしながら持ってきたが、置いて行ってよいとのことだったので駐車場にデポ。私は1人だけ早く電車で帰る予定なので、鬼川号の下に置いておくことにする。
3か月ぶりの室堂平は晴れて夏休みらしい賑わいだった。雷鳥沢の橋を渡ったところで休憩し、雷鳥坂の登りに備える。雷鳥坂は平野さんが気遣って後ろを歩いてくれるが、春合宿の雷鳥坂で転倒し平野さんのストックを折ってしまったことを思い出し怖かった。なんとか転倒せずに済んだが、先導する小林さんは一向に休憩してくれない。もしかしてこのまま休憩なしに別山乗越まで行くつもりなのだろうか、と思い始めた頃にやっと休憩を入れてくれた。荷物を下ろし、小林さんがテントポールを持ってくれるというので托したりしていると、数週間前に小川山で会った船戸さんが大荷物で登ってきた。剱沢にテントを張るらしいが、荷物が多いのに私よりもはるかに元気だ。登れるし担げるし、うらやましい限り。
剱御前小舎からは剱の全貌が見えた。いつも別山乗越に来るときは強烈な風とガスで、こんなにすっきりと剱が見えたことはない。初めてトウヤクリンドウも発見。中嶋さんは剣山荘の方に進もうとしていて、あとから思えばこれが予兆だったのかもしれない。
剱沢キャンプ場で雪渓の状態などの情報を確認しながら水を汲んで休憩。剱沢雪渓を下るときに、平野さんから「どこで登山道を離れてアイゼンを履いたか、よく確認するように」と言われる。1人で帰る私を気遣ってくれてくれているのが嬉しい。でも「この雪渓の滝が剱大滝だと思ってた」って、こんなによく見える雪渓の途中に「幻の剱大滝」はないと思いますよ・・・。
剣沢雪渓を下り、長次郎谷出合で休憩。ここからしんどいと聞いていた登りで、やはり疲れが出てどんどん引き離されてしまう。雪渓が切れた岩場に差し掛かったところで、聞いたことのある声がした。まさか、と思うと日に焼けた吉田さんの姿が見えた。期待通り途中まで迎えに来てくれたらしい。共同装備を持ってくれるとのことだが、私はすでにテントポールを小林さんに預けてしまっているので、食料を持ってもらった。吉田さんは中嶋さんから夕食の生米も預かり、炊飯に備えて浸水しておいてくれるという。優雅にたばこ休憩をはさみながら熊の岩に戻っていった。荷物は軽くなったものの足取りは重いまま、聞いていた通り長次郎谷出合から3時間かかって熊の岩に到着。
熊の岩は残雪のそばにチングルマが咲き乱れ、天国のような美しさだった。それまでの苦行からの解放も手伝って、この上なく美しく思えた。夕飯は中嶋さん特製ペミカンカレー。もちろん米も炊いてくれて山の奥地とは思えない豪勢な食事だった。

8/12(金)
剣稜会ルート
下山する吉田さんと別れ、Ⅵ峰Cフェース剣稜会ルートへ向かう。吉田さんは別れ際に「クライミングは、楽しくなくっちゃね☆エンジョイクライミング!」と言い置いて去っていった。妙に語感がいいのでこの山行中何度も真似して口にした。
集会などで小林さんから「すごくいいルートで大好き」と聞いていたのが、今回登った剣稜会・魚津高ルートだ。
熊の岩からⅥ峰は長次郎雪渓を渡ってすぐで、改めて熊の岩の立地の良さを知る。朝は雪がガチガチでトラバースは少し怖かった。
東京から来たという先行の3人パーティが登るのを待って登攀開始。取り付きはシュルンドというのか、岩と雪の隙間だ。前日熊の岩から眺めると、八ツ峰は滑らかな壁面ながら絶妙にギザギザした稜線を描いていて、こんなところを登れるのか不安になったが、近づいてみると意外と壁も寝ているし階段状と言えなくもない。登れるかもしれない、と希望が持てた。朝イチの登攀は気後れするので、小林さんにリードをお願いする。セカンドで登っているうちに雨がパラつき始めた。
2ピッチ目リード。1ピッチ目で自信がつき登れそうだと思い始めたが、雨が強まりフードをかぶってからスタート。ふと下を見ると、中嶋・平野・鬼川組がきゃあきゃあとなにやら盛り上がっている。楽しそうだな、と視線を横に移すと、3人からやや離れたビレイステーションにぽつんとたたずむ小林さんの姿が・・・。ちょっと胸がきゅっとなった。
3ピッチ目小林さんリード。よく覚えていないが、次の4ピッチを私が堪能できる場所で切ってくれた。
4ピッチ目リード。名物のナイフリッジに到達し、先行パーティが抜けるのをしばし待つ。ナイフリッジは素晴らしい高度感、そして景色だ。長次郎谷、そして源次郎尾根が目の前に広がっている。ちょっと惜しいが短いリッジを抜けてフェースを直上する。引き上げ時に下を見ると、鬼川さんもナイフリッジをリードすることになったようだ。小林さんはと言うと余裕でナイフリッジを抜けたところから鬼川さんの写真を撮っており「引っ張らないで!」と怒られた。すみません。
5ピッチ目は小林さんにとっては歩きの階段状。さっさと登攀を終えて雨も上がっていたのでCフェースの頭で大休憩をとる。その後Aフェースに向かうべく2回の懸垂でⅤ・Ⅵのコルへ降り立つ。雪渓から水が滴り、足場はガレガレのあまり長居したくないコルだ。

魚津高ルート(?)
病み上がりの中嶋さんは剣稜会ルートの1本だけで終了するが、魚津高ルートの取り付きまで案内してくれるという。中嶋さんに連れられてコルから数十メートル下ったAフェース基部へ。ここで間違いないと言われるが、様子が若干トポと異なるような・・・?小林さんも中大ルートから魚津高ルートに合流してしまったことしかないらしく、取り付きを見たことがない。皆いまひとつ納得はしていないが、唯一のルート経験者である中嶋さんが自信満々なので登攀を開始する。小林さんがリードで登り始めて早々、「なんだこれ?」という反応で、挙句の果てに「怖い・・・」と言い出した。それほど難しそうには見えないが、怖いのだろうか。鬼川さんが「浮石が怖いって意味ですよ、きっと!」と励ましてくれた。小林さんの姿が見えなくなり、ビレイ解除のコールを待つが、何を言っているのか聞き取れない。平野さん・鬼川さんにも耳を澄ませてもらうがやはり聞き取れないと言う。ビレイ解除ということだろうと判断して登り始めるが、ルートは苔がついておりハーケンも古く、到底人気ルートとは思えない。小林さんが怖いと言っていた凹角は、浮石と言うかかろうじて岩壁についている、土に埋もれているような岩がグラグラと揺れていた。その動く岩を使わないと上がれなさそうだったので、近くの揺れが小さい岩にそっと体重を移動させて乗り切った。終了点に着くと、小林さんはカムとハイマツで支点を構築しており、ゾッとするとともに疑惑は確信に変わった。絶対にこれは魚津高ルートじゃない!
あとのピッチはよく覚えていないが、懸垂ポイントが先ほどとは異なり降りやすかったことは覚えている。皆でぶつくさ言いながら熊の岩に帰還してAフェースを振り返ってみると、コルからだいぶ下った雪渓側にトポ通りの取り付きが見えた。よく見るとトポにも長次郎雪渓と記載があるし、あそこで間違いない。中嶋さんは頑なに過ちを認めようとしないが、翌日皆で正しい魚津高ルートを登ることを誓う。

8/13(土)
魚津高ルート!
食欲があまりないため平野さんと1食分の朝食を分け合い、森田さんの案内で正しい魚津高ルート取り付きへ。フェースを見上げてみると、トポと完全に一致しており間違いない。この日はパーティを変えようとグーとパーを出してみるが、結局前日と同じ組み合わせになった。小林さんは少々残念そうだ。ちなみに疑惑の渦中にいる中嶋さんも平野さん・鬼川さんと登ることになっている。
この日も1ピッチ目を小林さんにお願いする。階段状の凹角ですっきりしており、前日の1ピッチ目とは明らかに違う。上部はハングだがフォローなので怖くはない。
2ピッチ目リード。カンテがあるとは聞いていたが、こんなに気持ちのいいカンテだとは思っていなかった。初めてクライミングで気持ちいいと思えたかもしれない。天気も前日より良く、まるで宙に浮いているような高度感と開放感だ。下を見ると小林さんが真下に見えた。直上してきたんだ!嬉しくなって「小林さーん」と呼び掛けて手を振ってみるが反応はイマイチだった。
3ピッチ目のビレイをしていると、鬼川さんがリードで登ってきた。中嶋さんと平野さんの同時引き上げのコツをつかんだようだ。小林さんも2日間の登攀でダブルロープの片方が長いということに気づき、コールは互いに聞こえないが2本ともぴったりロープアップしてくれた。カンテが終わったそこは壁の支点はしっかりしているが、登ろうとすると細かな岩の欠片がポロポロと落ちてくる。左の凹角から登るとAフェースの頭手前は見覚えのあるハイマツ帯だった。前日登った偽魚津高ルートと合流しているようだ。
正しい魚津高ルートは前評判通りの素晴らしさで、早々に午前中に登攀を終え、皆上機嫌で熊の岩に戻り大宴会を開催。途中雨にも降られたが、隣のテントの男女パーティにもお越しいただき楽しく酒が進んだ。夕飯に親子丼を作るも、もう食べたはずの森田さんに「夕食は?」と言われ、あまり夕食らしい食べ応えがなかったのかなと思った。
 
8/14(日)
目が覚めてテントの外を見ると、晴れとは言えないがなんとか天気が持ちそうな期待ができる空模様。残るメンバーはチンネに行くので、下山する私とテントキーパーの森田さんよりも早くラーメンの朝食を召し上がっていただく。5:20にチンネに向かう4人を見送り、2張りのテントのうち1張を畳み幕営を縮小する。熊の岩を出立する際に森田さんと「次は大阪で」と握手を交わし、Ⅵ峰をバックに写真を撮ってもらった。後の集会で現像した写真をもらい、嬉しかった。
「1時間で出合まで下りられる」と言われたが、登り3時間もかかった雪渓をそれほど早く下りられるのか半信半疑で出立。途中剱沢と真砂沢から来たという2パーティとすれ違い、森田さんの言葉通り1時間で長次郎谷出合に着いた。ここでちょうど小雨が降りだし、チンネに向かったメンバーが心配になる。雨はそれほど強くならず降ったり止んだりを繰り返している。平蔵谷を越え、行きで平野さんに注意を促された雪渓から離れる場所に着いた。アイゼンを脱ぎ剱澤小屋までの急坂を上がると、ガスが出てきて天候は悪化しているが人の姿が見えて一安心する。いいペースで雷鳥坂の終盤に差し掛かった頃、雨が本降りになってきたので急ぎ足で雷鳥沢を通り抜け、12時室堂発のバスに乗ることができた。金沢で気に入りの寿司屋に立ち寄る頃には土砂降りになっていて、チンネに向かった4人は無事帰投できただろうかと思いながら帰途についた。
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