2008年5月5日 前剣岳東尾根事故報告書 その2

事故報告書 H20年5月5日前剣岳東尾根
~状況~

5月4日 
八つ峰と源次郎を登り、残る明日1日をどうするかと大内中嶋で考え、近くて手頃な所にしようと幾つかの候補の中から前剣岳東尾根を選んだ。

5月5日 曇り 大内L中嶋 空本
5時起床、6:30出発 7時取り付き。ルンゼから入るルートといきなり尾根から入るルートがあったがルンゼで小規模な雪崩が発生した為尾根から入る事にする。大内リードで簡単な雪壁を登り次にブッシュ交じりの壁をノーザイルで登る、空本には少し厳しかったようで苦戦している。中嶋に「今の所はザイル出した方が良かった」と言われたがブッシュが豊富にあったので自分は全く必要性を感じなかった。8時、少し安定した所で一本とる。次に傾斜40度程の雪壁をしばらく登り岩場につきあたる、ザイルを出して壁を越えさらにブッシュ帯の中へ突っ込んでゆく。次に傾斜50~60度程の雪壁を大内がノーザイルで登る、出だしの時点で雪が緩んでいる感じがして少しイヤラシイなと感じたが登ってゆくにつれて安定してきたのでそのまま突っ込む、約20m登った所で右へトラバースする、スタンスを狭くすると足元が崩れそうな感覚があったので広くスタンスをとり上部の岩場まで抜ける。続いて空本が登り出したので「少し雪が緩いから気をつけろ、同じ所に足を置くなよ、スタンスは広く取れ」と声をかけたがトラバースに移った時右足の雪が崩れて墜落(12:00)。反射的に落ちる方向を見ようとした為体が空中に投げ出され1回転し約30m落ち、奇跡的にブッシュにひっかかり一命をとりとめる。ブッシュでセルフを取り動かずに待つ様に中嶋が指示を出す。大内はクライムダウンするには傾斜がきつすぎるので中嶋がザイルを付け大内の所まで登り大内が打ったハーケン2本で懸垂気味に2人クライムダウンし空本の所へ行く(12:25)。空本は奇跡的に無傷で動ける状態だったので6回の懸垂で平蔵谷へ降り立つ(3:30)。

問題点の考察
① スケールやロケーションから前剣東尾根は手軽だと勝手に判断した。
② コースタイムから逆算して遅めの出発時間にした事と当日曇天だった為朝から気温が高かったこともあり事故現場付近の雪はかなり緩んでいた。
③ 手軽だという意識も手伝いザイルを1本しか持って行かなかった、大内が登りはじめた時はラストの空本を引き上げ中だった為大内はノーザイルで登った。もしもう1本あればザイルを付けていたかもしれない。
④ 空本が登りはじめた時大内は危険性を感じたが注意をしただけでザイルを付ける指示をだしていない。
⑤ 空本は岩場は弱いが雪壁は前日の源次郎でも安定して登れていたので大丈夫だろうと判断した、そもそも雪壁でザイルを出すという意識はあまりなかった。